Enjoy Sportscar>Lancer Evolution X
ランエボXのAYCには2種類あって、従来からのリアデフ部分で左右輪のトルクを移動させることで、車体にヨーモーメントを発生させるタイプのものと、ブレーキを片輪に掛けてヨーモーメントを発生させるものがあります。ASC(スタビリティコントロール)のスイッチを3秒以上長押しすると「ASC ALL OFF」状態となり、ブレーキを掛けるほうのAYCは効かなくする事ができます。
どちらのAYCも車を曲げることに対しては効果は得られるのですが、駆動トルク移動のほうにはあまり背反はない(重量や構造が複雑なこと位)ものの、ブレーキ制御についてはちょっと疑問を感じてしまいました。
それは、ブレーキ制御のAYCを効かせていると車両の挙動(フロントのロール)が非常に大きくて、とても扱い難いということです。なぜこのようなことが起きるかということと、対策を考えてみました。
根本的な原因は、ブレーキ制御のAYCがフロントに使われていることです。三菱テクニカルレビューによると、トルク移動のAYCを前輪につけるか後輪につけるかを考察しているものがありますが、わずかな効果の差でリアにつけることを選択していることがわかります(下に三菱テクニカルレビューの該当するグラフを引用して掲載します)。
AWD車の運動性能限界
(三菱テクニカルレビュー 2008 p.22 Fig.13 より引用)
それはそれで良いのですが、ブレーキ制御をフロントにするかリアにするかの選択をすると、ブレーキ制御はリアにするべきなのです。
なぜなら、車はサスペンションジオメトリで色々なことを行いますが、ブレーキに関するものとしてアンチダイブとアンチリフトがあります。アンチダイブはブレーキング時に車両のフロント側が沈み込まないように、ボディを押し上げるような力をフロントのサスペンションジオメトリで発生させます。アンチリフトはリア側に働いて、ブレーキング時にリアが浮き上がらないようにボディを引っ張り下げる方向の力が発生します。どちらもブレーキを掛けたときに車両の姿勢が前のめりにならないように、姿勢変化を抑えるのが目的で設定されます。欧州車では、アンチダイブは弱めに効かせ、アンチリフトを強めにすることで、ブレーキング時に車両全体が沈み込むように設定するのが好きなメーカーもあります。
アンチリフト、アンチダイブ
ここで、AYCのブレーキ制御を行うことを考えて見ます。車を旋回させようとするとき、旋回内輪側にブレーキをかけると曲がる方向の力(ヨーモーメント)が発生します。たとえば、左旋回なら左輪にだけブレーキをかけると、それが重心回りのモーメントになり、車体を左に回転させようとします。前輪にブレーキを掛けても、後輪にブレーキを掛けても良いです。前後のトレッドが同じであれば、制動力に対する効果も変わりません(実際は前後トレッドは違うことが多いので、若干は違いますが、その分制動力を調整すれば同じにできます)。
そこで、AYCとして前輪の内輪側にだけブレーキを掛けるとどうなるでしょうか。先に書いたように、前輪のサスペンションにはアンチダイブ力が発生してボディを押し上げようとします。旋回内輪側のボディが押し上げられるというのは、ロールが増える方向の力になってしまい、ロールの姿勢変化が大きくなってしまうのです。
逆に、リアの旋回内輪側にだけブレーキを掛けた場合は、アンチリフト力によってボディを引っ張り下げようとしますから、内輪側が浮くのを抑えます。つまりロールも抑えることが出来るのです。
ノーマルサスでは乗り心地を考えるとあまり硬い足にすることは出来ませんから、もともと姿勢変化は大きめなのです。が、それを助長してしまうのはどうかと思います。
対策案ですが、
AYCブレーキ制御はリアでしたほうが良い。
[2010.9.16]
バネレートを上げる事で車両の挙動が抑えられるので、ノーマルよりはブレーキ制御の影響が少なくなりました。とにかく曲がる!という感じが強くなります。車両挙動が抑えられた分、ステアリング反力に関する違和感が大きくなりましたが、その為に制御が使えないというほどのレベルではありません。しかし、気持ちよく走れるか?と言うとそうではありません。
特に嫌なのは、曲がっていくとAYCブレーキ制御のブレーキが追加される分だけ車速が落ちすぎてしまいます。その分を見越して走らせ方を変える必要があります。利かせ方を調整できると良いのですが、ちょっと効かせすぎなのではないかという印象です。
AYCブレーキ制御ありの走り方を極めたほうがタイムが出るかどうかは判らない所です。これについては、今後少しずつ試していこうと思います。
サスを硬めるとAYCブレーキ制御の悪影響は抑えられる。
が、速く走るには運転を変えなくてはならない。
[2010.10.15]